「贈与は年間110万円以内なら税金がかからない。」
とても有名な話なので、ご存知の方も多いと思います。
この「110万円」のルール、正式には「暦年課税」といいます。
でも、もしあなたが誰かに
「110万円の贈与のしかたはなんでもOKなの?」
「一人110万円以下だったら、何人からもらってもいいの?」
と聞かれたら、どうでしょう?
答えられますか?
実は「暦年課税」には注意しなければならない落とし穴があるのです。
なんとなく「110万円以下」だけしか知らないでいると、あとあと大変な思いをしてしまうかもしません。
今回は、生前贈与をする時に気をつけるべき点をご紹介します。
暦年課税の注意点⓵ 受け取る人の1年間の合計額で判断される
「暦年課税」は、受け取る側(「受贈者」といいます)の「1年間の合計額」で判断されます。
つまり、1回の贈与が110万円以下でも、その年に何回も贈与を受けると、合計額が110万円を超えてしまうと贈与税の対象となってしまうということです。
例えば、次のような場合です。
- お正月にお父さんから50万円
- ゴールデンウィークにお母さんから50万円
- お盆におじいちゃんから30万円
こんな場合、それぞれの贈与は110万円以下ですが、合計すると130万円になります。
すると、130万円から110万円を引いた20万円に対して贈与税がかかってしまうのです。
一人一人の金額は110万円以下でも、合計で110万円を超えないように気をつけましょう。
一人から複数の人に年間110万円以下ずつ贈与した場合は贈与税はかからない
ちなみに、1人の人が複数の人に各110万円以下の贈与をしても、贈与税はかかりません。
たとえば、おじいちゃんから子供3人、孫6人にそれぞれ100万円ずつ贈与をしても、誰にも贈与税はかかりません。(こんなおじいちゃんがいたらうらやましいですね。。。)
相続対策として、複数の人への暦年贈与は有効な相続税対策の一つになります。
暦年課税の注意点② 毎年同じ時期に同じ金額を払うと「定期贈与」とみなされる可能性がある
「定期贈与」とは、毎年同じ時期に同じ金額を支払う贈与のことで、たとえば1000万円の贈与について、その支払いを毎年1月1日に100万円ずつ、10回に分けて支払うようなときのことを言います。
通常は契約書の条件に基づいて分割して支払うものですが、たとえ契約書が無くても、実態として毎年同じ時期に同じ金額を支払っていると、税務署は定期金給付契約に基づく贈与と判断する可能性があります。
上の例で言うと、毎年100万円ずつで暦年課税の範囲内のつもりだったのに、1000万円の贈与を1回行ったと判断されてしまうということです。
こんなことにならないように、
- 1年目 支払時期4月 金額105万円
- 2年目 支払時期7月 金額90万円
- 3年目 支払時期11月 金額100万円
といったように、毎年支払う時期と金額をずらすようにしましょう。
暦年課税の注意点③ 死亡時に、過去の贈与の一部が相続税の対象になる
暦年課税は、相続開始前3年以内(令和6年以降は7年以内)に贈与していた分は、相続財産として相続税の計算対象になります。
生前贈与をしても、相続人が亡くなったら元の木阿弥になってしまう可能性があるということです。
たとえば、上の例のように定期贈与を避けるためにと、1年目105万円、2年目90万円、3年目100万円で合計295万円もらった時点で被相続人が死亡した場合、せっかく税金がかからないようにしていたのに、295万円がまるまる「相続税」の計算対象になってしまうということです。
ちなみに、相続税の計算方法の基本については下記のブログを参照ください。
暦年課税の注意点④ 相続時精算課税と併用できない。
「相続時精算課税」とは、60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子や孫に対して財産を贈与する場合に適用できる制度で、一人あたり2500万円までは贈与税の支払いを先延ばしにできます。先延ばしたぶんは、相続の時にまとめて相続税の計算をし、精算することができる仕組みになっています。
相続時精算課税は価値が上昇する可能性のある住宅や土地などを贈与する場合に有利ですが、暦年課税を選択した場合は使えません。
つまり、「暦年課税」か「相続時精算課税」かどちらか一方を選ばなければならないということです。
※令和6年以降はこの問題は解決されそうです。「相続時精算課税」の詳細については下記のブログを参照ください。
まとめ
以上のように、暦年課税はとてもお得で活用しやすいのですが、実は落とし穴が多い制度です。
生前贈与を考えている方は、暦年課税の注意点をしっかりと理解しておくことが大切です。
もしわからないことがあれば、お気軽に当事務所までご相談くださいね。
生前贈与は、あなたの大切な財産を守るための有効な手段です。
『落とし穴』に気を付けて、慎重に受け渡していきましょうね。
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