【相続対策】「相続時精算課税」って何がいいの?|特徴、メリット、注意点と令和6年改訂について

「相続時精算課税」とは、親から子、祖父母から孫に財産を生前贈与するときに選択できる贈与税の制度です。

この制度を選択すると、税金の支払いを先延ばしにできるだけでなく、節税効果も期待できます

また、令和6年からは制度の内容が一部改訂され、さらに利用するメリットが大きくなります

もし今からこの制度の利用を検討するなら、令和6年まで待ってから活用することをおすすめします

しかしこの制度、難点があります。

何が特徴でどんな時に有利になるのかがとてもわかりづらいことです。

今回の記事はとても長くなってしまっているので、この制度の利用を検討した方が良い人、記事をしっかり読んだ方が良い人を先にお伝えします。

  • 自分が60歳以上で、18歳以上の子か孫がいる
  • この子(孫)に渡しておきたいと思う資産、財産がある
  • 今後値上がりしそうな資産、財産がある
  • 緊急で多額の贈与をする必要がある

こんな方は、ぜひしっかり読んでいただきたいです。

これ以外の方は、今の時点ではざっくりと流し読みして、上記のような状態になったらしっかり読んで検討いただければと思います。

前置きが長くなりましたが、今回の記事では、

  • 令和5年10月現在の現行制度の特徴やメリット、注意点
  • 令和6年以降に改訂されるポイント

についてご説明します。

「相続時精算課税制度」の特徴、メリット(令和5年10月現在)

「相続時精算課税」の特徴、メリットとして、大きく以下のものがあげられます。

「相続時精算課税制度」を利用できる条件

まずは大前提となる「相続時精算課税制度」を利用できる条件についてです。

「贈与者が60歳以上で、18歳以上の子や孫に対して贈与する場合」

この条件にあてはまらないと制度の利用はできませんので、年齢が足りない場合はしばらく我慢しましょう。

受け取って欲しい人に確実に贈与しつつ、税金の支払いを相続時まで先延ばしできる。

これが大きな特徴、メリットなのですが、ややこしくてわかりにくい点でもあります。

順を追って説明しますのでゆっくり確認してもらえるとうれしいです。

「生前贈与」は受け取って欲しい人に確実に財産を渡すことができる

「相続時生産課税」の前提となる「生前贈与」のメリットとして、「受け取って欲しい人に確実に財産を渡すことができる」点があります。

もし遺言を残さずに死亡した場合、遺産をどう分割するかは、相続人たちが協議して決めることになります。

そのため、本当は「この人に」と思っていた財産が他の人に相続されてしまったり、協議がまとまらなければいつまでたっても財産が相続されないということも。。。

また、たとえ遺言書を残していたとしたとしても、その内容に相続人が納得できない時など、必ずしも遺言通りの相続が行われるとは限りません。。。

その点、生前贈与ならば、受け取って欲しい人に確実に財産を贈ることができます

「生前贈与」の注意点

ただし、生前贈与するときにネックになることがあります。

重い贈与税の支払いです。

生前贈与をしたとき、年間110万円以内なら申告も税金支払いも不要ですが、110万円を超える大きな贈与が必要な場合は、翌年に確定申告をして贈与税を支払う必要があります。

もし贈与したものが土地や家などの不動産の場合、受け取った側は、お金はもらってないのに税金の支払いはしなければならず、貯金を切り崩さなければなりません

しかも、贈与税はとても重いです。。。

「相続時精算課税制度」なら翌年の確定申告で税金を払わなくてよくなる

しかし、「相続時精算課税制度」を利用すると、「贈与税」は一旦払わなくてよくなり、相続の時になったら「相続税」としてまとめて計算して払えばよいことになります。

これにより、税金の支払いを先延ばしにできるというメリットがあります。

具体的には、贈与する財産が2500万円以下なら、税金の支払いは一旦OKになります

また、贈与を1回したらこの制度はもう終わりではなく、2500万円に達するまでなら何回贈与しても税金の支払いは一旦OKです。

贈与が2500万円を超える場合

もし2500万円を超える場合は、2500万円を超過した金額に対して20%の贈与税を翌年の確定申告の時に支払うことになります。

【例】

贈与した金額が3000万円だった場合

3000万円-2500万円=500万円

500万円×20%=100万円

翌年の確定申告で支払う金額は100万円

しかし、もし2500万円を超えて「贈与税」を一旦支払う場合でも、あとで「相続税」をまとめて計算して税金を支払うときに、「贈与税」として先に支払っていた金額はマイナスすることができるのです。

【例】

贈与税として先に支払っていた金額が100万円

相続が発生し、他の財産も含めた全体の相続税を計算した結果300万円となった。

相続税として納税する額⇒300万円-100万円=200万円

もし相続税を計算した結果、相続税が0円(相続税の基礎控除の範囲内で収まる場合など)だった時は、先に払っていた贈与税分はまるまる戻ってきます。

通常は「贈与税」より「相続税」の方が税率が低い

「相続時精算課税」を利用することにより、本来なら「贈与税」を払うものが、「相続税」に変わります。

わずかな例外はあるものの、通常は「贈与税」よりも「相続税」の方が税率が低いので、税金の支払いを抑えることができるようになります。

評価が今後上がりそうなものを贈与すると税金が有利になる可能性が高い

たとえば、持っている土地の近くで大規模開発が予定されているなど、今後の値上がりが予想される場合、「相続時精算課税」を利用して先に贈与をしておくと税金が有利になる可能性が高いです。

その理由は、

「相続時精算課税」を使う時と使わない時の税金の計算基準の違い

使う⇒「贈与時点の評価額」

使わない⇒「相続時点の評価額」

なので、「贈与時点の評価額」より「相続時点の評価額」の方が高くなりそうな時は、「相続時精算課税」を利用すると税金が有利になる可能性が高いのです。

「相続時精算課税制度」の注意点(令和5年10月現在)

「暦年課税」が使えなくなる

これが1番大きな注意点です。

「暦年課税」とは、贈与を受けたとしても年間110万円以内なら確定申告も税金の支払いも不要という制度です。

とても有名なので、多くの人が利用している制度だと思います。

しかし、「相続時精算課税」を利用すると、それ以降は「暦年課税」が使えなくなってしまいます

  • 「暦年課税」…年間110万円以内なら税金の支払い自体が不要
  • 「相続時精算課税」…税金の支払いを先延ばしにするが、税金の支払いは必要(※不要な場合もあり)

よって、「暦年課税」で少しずつ贈与した方が税金が安く済む可能性が高いです。

ただ、暦年課税で少しずつ贈与するつもりだったのに突然亡くなってしまい、遺産分割協議が必要になってしまうことがあったり、結果として相続税が0円で済んでどっちを選択しても税金トントンな可能性もあるので、この判断はとても難しいです。

「小規模宅地等の特例」が使えなくなる

「小規模宅地等の特例」とは、一緒に住んでいた自宅の土地を相続する場合などに相続税を大幅に減額してもらえる制度です。

しかし、「相続時精算課税」を利用して上記のような土地を贈与すると、この「小規模宅地等の特例」が適用されなくなってしまいます

なので、結果として相続税が高くついてしまう可能性があります。

必ず税務署に届出をする必要がある

「相続時精算課税」を使うためには、必ず税務署に「相続時精算課税」を利用することを届出する必要があります。

届出をしなければ税務署は制度の利用を認めてくれませんので、すぐに贈与税を支払わなければならなくなってしまいます。

翌年の3月15日までに必ず届出をしましょう。

贈与契約書を作成する必要がある

贈与は、口頭の確認だけでも行うことができます。実際、ちょっとしたお金の援助なんかでいちいち契約書を作ることはないでしょう。

しかし、「相続時精算課税」を利用する時は、贈与をした証拠として贈与契約書を作成し、確定申告や相続の時に税務署に提出する必要があります。

【重要!】令和6年の改訂点

現行の制度で特にネックとなるのは、「暦年課税」が使えなくなる点でした。

しかし、令和6年以降はここが大幅に改善されます

「相続時精算課税」選択後も、年間110万円以下の贈与なら申告と納税が不要になる

これまでネックとなっていた暦年課税が使えなくなる点が一気に改善され、「相続時精算課税」を選択しても年間110万円以下の贈与は申告も納税も不要になります。

また、相続時精算課税の非課税枠2500万円を使うことにもならないので、税金の先延ばしメリットは現行制度と同じ効果があります。

しかも「生前贈与加算」がない

「生前贈与加算」とは、亡くなったら3年or7年前までに生前贈与してきた分は「相続税」の計算対象に加えなければいけなくなるというルールです。

たとえ「暦年課税」を利用して年間110万円以内で贈与してきた分でも、「生前贈与加算」によって「相続税」の対象になってしまいます。

「暦年課税」の注意点として以前のブログでも紹介した「生前贈与課税」のルールですが、令和6年以降の「相続時精算課税」では、年間110万円以内で贈与した分は「生前贈与加算」の対象にならず、「相続税」の支払いも不要になります。

この点は非常に大きいです。

ただし、管理と計算はより複雑になる

上記のように令和6年以降はとてもメリットが大きくなりますが、その反面、管理と計算がかなり複雑になります。

110万円を超えるのか超えないのか、超えたのはいつの時点かなど、お金の管理に細心の注意を払っていく必要がありますし、確定申告時の計算も今以上に複雑になることが考えられます。

制度を利用するときは必ず税理士の先生か、税務署の担当者の方とよく事前相談することをおすすめします。

まとめ

とても長い説明になってしまいすみません。。。

本当にこの制度、利用するメリットがあるのかないのか、ぱっと見だけでは理解できないし、一生懸命読み込んで制度自体は理解できても、じゃあ「どんな時が得」っていうのがはっきり言えず、わかりくいんです。。。

ただ、冒頭の繰り返しになりますが、次のような方はこの制度の利用を検討する価値があると思います。

  • 自分が60歳以上で、18歳以上の子か孫がいる
  • この子(孫)に渡しておきたいと思う資産、財産がある
  • 今後値上がりしそうな資産、財産がある
  • 緊急で多額の贈与をする必要がある

制度の利用を検討する時は、事前に税務署や税理士の先生に相談して、メリットがあるのか検討することをおすすめします。

当事務所でも贈与税、相続税に詳しい税理士の先生をご紹介できますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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